2026.08.07
■案件分析レポート❹
(仮称)那珂川市総合運動公園整備運営事業
はじめに
那珂川市では、市民のスポーツ・レクリエーション活動の拠点となる総合運動公園の整備・運営事業について、公募型プロポーザル方式による事業者選定が実施されました。
本案件では4グループが応募資格を取得し、そのうち2グループが提案書を提出しています。審査は価格だけでなく、設計・施工・維持管理・運営・自主提案までを総合評価する方式で行われました。
本記事では、公開されている審査講評、採点結果、提案概要から、
「審査員は何を評価したのか」
を読み解き、提案書づくりのポイントを分析します。
事業の位置づけと求められた役割
本事業は、市内に点在するスポーツ施設を再編・集約し、市民のスポーツ・レクリエーション活動の拠点となる総合運動公園をPFI方式で整備・運営する事業です。募集要項では、市民の健康増進や競技力向上に加え、多世代が集い、交流し、防災機能も備えた公園づくりを基本理念として掲げています。
求められていたのは、
- 市民が日常的にスポーツを楽しめる環境の整備
- 緑豊かで憩いの場となる公園空間の創出
- 地域交流やイベントを生み出す賑わいづくり
- 災害時には防災拠点として機能する施設整備
といった、多様な役割を一体的に実現することでした。
「スポーツ施設」と「都市公園」を融合し、市民の日常利用と地域活性化を両立させること
が、本事業の大きなテーマであったと言えます。
つまり本案件は、単なる競技施設の整備ではなく、
「スポーツ・交流・憩い・防災を兼ね備えた地域の新たな交流拠点を創出する事業」
であったと言えるでしょう。
審査結果から見る勝敗構造
本案件は2グループによる競争となりました。
評価結果を見ると、
- あおグループ:性能評価点 388.0点
- みどりグループ:性能評価点 334.5点
と、設計・提案内容で大きな差がついています。
一方、価格評価点はほぼ同水準であり、
価格ではなく提案内容で勝敗が決まった案件
であることが明確です。
この案件で何が評価されたのか
本項では、審査講評をもとに、評価されたポイントを整理します。
今回の提案で最も高く評価されたのは、「施設単体ではなく、公園全体をどう使うか」という視点でした。
講評では、
- 高低差を抑えたレイアウト
- 芝生広場・クラブハウス・遊具・交流広場を一体利用
- 公園全体のつながり
が評価されています。
提案概要を見ても、競技施設だけでなく、
- 芝生広場
- 健康遊具
- アーバンスポーツ
- クラブハウス
- 周回園路
が有機的につながる計画となっており、「スポーツ公園」と「地域公園」の両立を目指した設計思想が読み取れます。
今回の採点で特徴的だったのが、地域経済への貢献です。
配点40点に対し、あおグループは満点となる40点を獲得しています。個別講評を見ると、市内事業者の積極的な参画が高く評価されています。
PPP案件では、地元企業との連携は単なる協力会社紹介ではなく、提案全体の評価を左右する重要項目であることが分かります。

本案件で最も大きな差が出たのがここです。

- あおグループ:47.5点
- みどりグループ:20.8点
という大差となっています。内容を見ると、
- 飲食施設
- プロランニングコーチによるイベント
- 多世代向けイベント
- スポーツ以外の利用促進
など、公園の集客力を高める自主事業が高く評価されています。
単なる施設整備ではなく、「人を集める仕組み」まで提案していたことが勝因と言えるでしょう。
講評では、設計段階から維持管理・運営を見据えていることが評価されています。
さらに、
- 人工芝管理
- 遊具点検
- 引継ぎプロジェクトチーム
- 自主総合点検
など、供用開始後まで具体的に描かれている点も高く評価されています。
「建てて終わり」ではなく「20年間運営する」
というPPP事業らしい提案になっていることがうかがえます。
なぜ差がついたのか
この案件の本質は、
「設計の良し悪し」ではなく「設計の深さ」
です。
みどりグループも設計自体は評価されていますが、
- 利用シーンの具体性
- 運営との連動
- 地域との関係
- 集客の仕組み
において差がありました。
つまり、
“設計をどう使うか”まで踏み込めたかどうか
が勝敗を分けています。
審査員が見ていたポイント
1.空間の完成度ではなく「使われ方」
- 動線
- 滞在性
- 利用シーン
体験として成立しているか
2.地域との関係性
- 地元企業
- 地域イベント
- 多世代利用
地域に根付くかどうか
3.継続的な価値創出
- 自主事業
- 運営計画
- 維持管理
使われ続ける仕組みがあるか
結論
本案件は、「設計が良い案」ではなく
「使われ続けることまで設計された案」が勝った案件
です。
設計・運営・地域性・集客が一体となった提案が評価されています。
提案書づくりへの示唆
本案件から得られる示唆は、提案書の役割そのものに関わるものです。
公共施設の提案においては、もはや「何をつくるか」を説明するだけでは十分ではありません。重要なのは、その施設がどのように使われ、どのような価値を生み出し続けるのかを、具体的なイメージとして伝えることです。
そのためには、設計・運営・事業の各要素を個別に説明するのではなく、それらを一体のものとして構成し、「使われ続けるストーリー」として描くことが求められます。また、地域との関係性や自主事業のあり方についても、付加的な要素としてではなく、施設の価値を支える前提として組み込む必要があります。
さらに、評価構造を踏まえれば、単に良い提案を目指すのではなく、「どの部分で評価差が生まれるのか」を意識しながら、提案全体を設計する視点が不可欠です。設計の完成度、運営の具体性、地域性、そして継続的な価値創出。このすべてをバランスよく、かつ一貫したコンセプトのもとでまとめ上げることが、最終的な評価につながります。
つまり提案書とは、情報を整理した資料ではなく、発注者に対して「この事業はこう実現される」という未来を納得させるための設計図であると言えます。本案件は、そのことを改めて示した事例です。
